はじめに
今日は、「うだるような暑さ」という表現がしっくりくるようなお天気で、洗濯物がよく乾いたようです。
本日は、朝礼を終えると早々に税務相談会場へ直行し、夕方まで税理士会主催の税務相談会に従事しました。
途中、税理士会支部事務局に、税務署長さんたちが着任のご挨拶におみえでした。たまたま居合わせた私も、名刺交換をさせていただきました。税務署は、7月10日に異動となります。まさに、着任したばかりということになります。今度の署長さんは、女性の方でした。鈴鹿税務署では初の女性署長だそうです。鈴鹿市は、市長も女性、商工会議所の会頭も女性、教育長も女性(今は違うのかもしれません)と、女性が活躍されてみえます。
お昼は、関与先様で昼食を済ませました。予定よりも早く済ませることができたので、金融機関にも立ち寄ることができました。
そういえば、本日の税務相談会場の事務職員さんも女性、お二人のご相談者様お二人とも女性でした。
それはさておき、帰社後は動画で「家族信託」について学ぶことができました。都合のよい時間帯に、一人でじっくりと学びの時間を取ることができるので、たいへんありがたいです。成年後見人制度に欠陥がある(たとえば、宮内康二・長谷川学『成年後見制度の闇』には、さまざまなトラブルが列挙されている。)として、最近、資産承継の新しい手法としてよく使われるようになったそうです。
そこで今日は、この家族信託について、ケーススタディーを通じてその活用方法を探ってみたいと思います。昨年もこのブログで「家族信託を活用しよう!」というテーマで書かせていただいたことがあります。今回は、不動産を所有する方の認知症対策といった具体的なケーススタディーを通じて理解を深めたいと思いますので、どうぞよろしくお付き合いください。
家族信託の基礎知識
「家族信託」とは、一般的(コトバンク)には次のように説明されています。
認知症や介護施設への入所などに備え、財産を管理・運用・処分する権利を、信頼できる家族に託す手法。家族や親しい人らに財産管理を任せる「民事信託」の一種であり、2007年(平成19)の改正信託法施行で、家族信託がしやすくなった。親の認知症や介護入所に備え、親(委託者・受益者)の介護費などを捻出(ねんしゅつ)・管理・運用するため、子(受託者)と契約を結ぶのが典型的事例である。子は親の実家などの不動産を売って親の介護費を捻出し、残った売却代金を子が管理する信託契約専用の「信託口(しんたくくち)口座」に入れ、運用して親の生活費にあてる。不動産などの財産は親から子へ名義変更するが、財産権は親が保有し続け、子は運用・管理などを任されるだけで財産権をもたない。したがって贈与税や不動産取得税も発生しない。受託者には遠縁の人や友人でもなれるが、大半が近親者である。財産を目的外に使わせず、家族全員の安心を確保するため、受託者を見張る信託監督人を置くこともできる。家族信託は、親の判断能力が衰える前に老後の生活費や介護費のめどをたてやすいうえ、相続や財産分与などについてあらかじめ契約で決めておける利点もある。
財産管理・継承の手法には、家族信託のほか、遺言や後見制度があるが、遺言は死亡するまで効力を発せず、生前の財産管理には対応できない。また後見制度は費用や労力面で後見人の負担が重く、資産処分はできるが資産運用などは認められていない。つまり家族信託は、財産の管理・運用・処分の自由度が高く、家族構成や事情に応じて実情に即した管理・継承ができる手法といえる。契約するには司法書士、行政書士、税理士、弁護士ら専門家と相談し、関係者が納得したうえで契約書をつくる。契約費は資産額の1%程度が目安。一度契約すれば報酬などの固定費は発生しない。
要約すると、「家族信託」は契約の一種で、委託された財産を管理・運用・処分しやすいメリットがあります。また、所有権が委託者から受託者に移転しても、贈与税が発生せず、税務上、特別な取扱いをすることとなります。
さらに、委託者の意思によって、委託者が定める目的にそった費消しかできなくすることもできます。
反面、この『家族信託』のデメリットは、つぎのとおりです。
- 財産管理しかできない
- 損益通算ができない
- 長期間にわたって契約の当事者を拘束する
- 精通した専門家が見つからない
- 税務署への手続きが多くなる
ⅰ.家族信託を締結しても、子どもが親の代わりに全ての法律行為を行えるわけではない
ⅱ.家族信託をしていない財産からの収益や他の信託財産との黒字や赤字を相殺できない
ⅲ.家族信託によって特定の財産の承継者を決めることができるものの、受益権者が死亡するときまで契約に従わなけれならず、ときには長期間に及ぶことがある
ⅳ.専門家を探すのもたいへん
ⅴ.受益者が家族信託によって受け取った収益を確定申告で「信託の計算書」を作成し、添付しなければならない
と、いったデメリットもあります。
これらを踏まえて、家族信託を利用するか否かの判断材料とすべきです。
不動産オーナーの家族信託
ここでは、アパートの所有者Aさんが、家族信託を認知症対策として利用する場合を考えてみます。
もしAさんが認知症になると、次のような法律行為がスムーズにできなくなってしまうことが考えられます。
- 賃貸借契約(アパートや駐車場の貸出し)の締結
- 建物の修繕(たとえば、外壁塗装・水まわりの修理・退所時のリフォーム等)など業務委託契約の締結
- ガス器具や湯沸かし器などの売買約の締結
- 不動産管理会社との業務委託契約の締結
- ゴミの回収などの業務委託契約の締結
- 預貯金の預入や引出、あるいは定期預金の解約
- 遺言書の作成
- 贈与契約の締結
- 所得税の確定申告書の作成・提出
などなど、枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がありません。
こういったことが認知症によってできなくなってしまうと、とても不安ですね。
そこで、考えられるのは、成年後見人制度の利用です。この制度は、判断能力が法的に認められないAさんのために、家庭裁判所が選任した成年後見人(親族や税理士、司法書士、ケアマネージャーなど)が法律行為をAさんに代わって行います。この制度の目的は、Aさんの財産保護となります。したがいまして、Aさんの利益にならないような法律行為は許されません。この目的を実現させるために、家庭裁判所が監督します。たとえば、Aさんの孫の大学の入学金を援助してあげることもできなくなります。これは、いくらAさんのかわいい孫のためであっても、Aさんのためではなく、むしろAさんの財産を減らしてしまう行為だからです。成年後見人制度はこのようなデメリットも考えられるわけです。
つぎに考えられるのが、「家族信託」です。Aさんの場合、次のような信託契約が考えられます。
- 委託者=Aさん(「家族信託」をお願いする人)
- 受託者=ご長男(Aさん信頼できる親族)
- 受益者=Aさん(家賃収入を受け取る人は、これまでどおり、Aさんのまま→所得税等もAさんが負担)
- 信託財産=Aさん所有のアパート
このような「家族信託」契約にによって、Aさんのアパートの法的な所有権はご長男(受託者)に移ります。「家族信託」に馴染んでいない方は、ここで驚かれると思います。さらに、「家族信託」で所有権が移っても、贈与税はかからないのです。これは、信託財産上の所有権がご長男と扱われ、税務上の所有権に変動はない扱いとなるためです。このように、Aさんの「家族信託」の場合、アパートの法的な所有権が移っても贈与にはあたらず、贈与税もかからないということになります。
ここで心配になるのが、所有権がご長男に移ってしまうと、勝手に賃料収入をご長男が遣ってしまわないか?あるいは、Aさんが知らない間にアパートを売却されはしないか?ということになります。この点についても、ご長男はAさんが納得する信託契約で定めた内容に沿って家賃収入を管理したり、修繕をしたりすることになります。勝手に売却もできないように取り決めれば、安心です。
また、ご長男が破産してしまったときは、Aさんのアパートも差し押さえられたりするのではないか?という心配もあります。この心配も大丈夫といえます。Aさんのアパートの所有権がご長男に移っても、登記簿上、「信託財産」と明記されますので、一般的なご長男の所有する不動産とは区別されることになります。したがいまして、受託者が破産した場合、受託者は交代することになりますが、この家族信託契約は継続されます。
このように、アパートを所有するAさんが認知症になってしまったときのことを考えて、「家族信託」契約を締結することにはメリットが多いといえます。
おわりに
まだ馴染みのない「家族信託」ではありますが、認知症でとても有効に活用することができる制度であるととても有効に活用することができる制度であると思います。
デメリットも踏まえて、「家族信託」の活用も相続対策の一環としてご検討いただいてみてはいかがでしょう?
ご相談は、以下のフォームより承(うけたまわ)っております。お気軽にどうぞ。