「争族」を回避する!
朝夕は、めっきり冷え込みを感じる季節になりました。18時前にはもう暗くなります。最高気温が25度を下回ると、羽織るものがあったほうがよいと天気予報で聞きました。当事務所は、本日も窓を開けての営業となりました。
本日(令和2年(2020)年9月29日)の来客は、郵便屋さんとお弁当屋さんだけでした。とても珍しいことですが、おかげさまで、デスクワークをずいぶん進めることができました。季節と同じようにこれまでの実りの多い総仕上げをするような思いでした。そういう意味で、本日も充実した一日を過ごさせていただくことができました。
今回は、「争族」の実例を通じて、「争族」にしないためにどうすればよいか?考える機会にしていただきたいと思います。是非ご参考になさってください。
「争族」の始まり
子どもの一人がずっと親と一緒に暮らし、生活や介護の世話をしてきました。親の土地に夫が家まで建てています。父が先に亡くなり、その土地は母が相続し、その母も亡くなりました。資産(仮)は、1200万円ちょっとのその土地と預貯金が150万円ほどです。
3人姉妹の次女であるこの方は、妹さんとの不仲が心配で、生前にお母さんに自筆で遺言書を書いていただきました。その内容は、全財産を次女にあげるといったものです。次女はこの遺言書があるから大丈夫だと思っていました。
ところが、いざお母さんが亡くなって、その遺言書を見せて、姉妹に納得してもらおうとしたところ、その遺言書が本当にお母さんによって書かれたものかどうかを疑われ、家庭裁判所で検認の手続きを経ました。真正な遺言書であることが認められましたが、遺留分(相続人が法定相続分の半分の財産を求める権利)を請求して、調停(家庭裁判所で裁判になる前にお互いの意見を主張し合って合意できる内容を探(さぐ)る手続き)になってしまったそうです。
この場合、法定相続人(子ども)が3人いますので、姉や妹は3分の1の半分、つまり6分の1の財産をもらう権利(遺留分の請求)を主張できるわけです。金額でいうと、1350万円の6分の1、225万円をくださいと姉と妹は主張できるわけです。
この事例では、妹さんはその225万円を主張されたそうですが、お姉さんは預貯金の150万円の3分の1、50万円だけを求めたそうです。ということは、お姉さんに50万円、妹さんに225万円現金で支払わないと、住んでいる土地を相続(自分たちのものに)できなくなります。そうとすると、姉妹に払う275万円が必要となりますが、相続する預貯金は150万円しかありません。125万円の不足となります。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう?次女は、お姉さんまで遺産の分配を要求するとは思っていなかったそうです。この背景には、自分たちがずっと親と同居して暮らしてきたから、親のものを引き継ぐのは当たり前と思ってしまったところがあるようでした。しかし、法律の世界はそうは考えません。個人の意思が遺言書ではっきり言明されていても、法定相続人には一定の相続をする権利、つまり遺留分を請求する権利が認められているのです。
また、生活や介護での面倒をみてきたという主張は、
- 逆に親が元気なときには自分たちが親から生活の援助を受けてきたのではないか?
- 次女家族は親の土地に家を建てて地代を払わずに暮らしてきたではないか!
といった反論(特別受益)を受けるかもしれません。近年、法律の世界では、生活や介護の面倒をみたという実績を実績をもう少し評価しようという気運が高まりつつありますが、それでもこの次女が思っているほど、遺留分の請求に対抗できるまでには至っていないのが現状です。
「争族」を回避するためにはどうすればよかったのか?(考察)
済んでしまったことをとやかく言ったところで、どうにもならないとは思いますが、このケーススタディーから学んでそれを今後に活かすことはたくさんあると思います。ここでは、この実例から学んで、自分ならどうすればよいのか?を考える機会にしていただきたいと思います。このことが、「争族」を回避する具体的な対策を考えることになると考えられます。
遺留分の手当てをする
まず、お母さんの資産がどれくらいあるかを把握して、遺留分を試算します。これも容易いことではありませんが、ここが出発点となります。つまり、これを避けて「争族」の回避はあり得ないと考えます。
さて、その額をどのように工面しておくかが重要になります。お母さんの年齢や体況にもよりますが、私が次女の立場なら、生命保険の活用を考えます。なぜかというと、つぎのような二つのメリットがあるからです。
- 節税が可能となる
- 受取人を指定できる
このあたりは、テクニカルなお話しとなります。「生命保険は相続税の節税に使える」かもしれないと、ご記憶ください。
自筆証書遺言の保管制度を活用する
今回の遺言書は、要件を満たしていたようですが、家庭裁判所での検認手続きを受けなればなりませんでした。これまで縷々(るる)お伝えしてまいりましたように、法務局が取り扱う自筆証書遺言の保管制度を活用していれば、その手間を省くことができました。きっと時間や費用の節約にもなったと考えられます。
これもまた、手続き上のお話しといえます。これまで何度か取り上げてきた「自筆証書遺言の保管制度」は、費用も高くはなく、法務局が扱っている新しい制度で、検認の手続きも不要となるなどたいへん利便性の高いことをご理解いただき、ご活用いただければと存じます。
ただし、この制度は今年(令和2(2020)年7月10日に創設された制度なので、本事例の次女の方がご存じなかったのも無理もないかもしれません。
専門家の知恵を借りる
手前味噌になってしまうので、強調はしませんが、遺言書の作成にあたっては、専門家の知恵を借りるべきだったと思います。そうすれば、遺留分の問題もしっかり織り込んだ遺言書の内容にすることもでき、お金の工面も考えることができたと思います。
また、金銭的な問題に偏(かたよ)ることなく、姉や妹の感情に対しても、はたらきかける工夫もできたかもしれません。確かに遺言書は、どの財産を誰にあげるのかをはっきりさせる文書ではありますが、これ以外にもご自身が残された者にその意思を伝える絶好の機会でもあるといえます。たとえば、
- 「兄弟仲良く生きていきなさい」
- 「お墓の守(も)りは○○に託します」
- 「○○はもう少しお酒を控えなさい」
- 「○○はもう少し人に優しく接しなさい」
- 「友達をたくさんつくる必要はないので、いつもそばにいてくれる人を大切にしなさい」
あるいは、
- 「できれば、最期は、病院や介護施設といった場所ではなく、自宅で息を引き取りたい」
- 「葬儀は飾り立てる必要はなく、お経だけ上げていただければ十分です」
などなど、
遺言書は伝えたいことを伝える機能も有しているので、是非相続人の方々に伝えるべきだと私は思います。事実、「公正証書遺言」にも付言事項を述べることができます。実際、私もヒアリングをし、何度も公正証書遺言に記載していただいたことがあります。私は、「寄り添う相続」とは、こういうことではないかと考えているので、遺言書を単なる「財産分け」の書類としてだけではなく、伝えたいことを文章にして遺(のこ)すことも大切にしています。
こういったことも、専門家に相談すれば教えていただけたことでしょう!そして、この付言事項を読んだらこの三姉妹も仲良くしてくれたかもしれません。たとえ、費用がかかっても、「モメない工夫」を専門家に託すことも賢明な選択肢ではないでしょうか?
「争族」を回避するなら…
鈴鹿市(三重県)にある谷田義弘税理士事務所は、たにだ行政書士事務所が併設されています。遺言書をつくるプロフェッショナルと言える二重の資格を兼ね備えています。また、複数の生命保険代理店でもあります。さらに、「心の相続」「寄り添う税理士」を心掛けていることは、本文をお読みいただければご理解いただけたのではないでしょうか?
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